
こんにちは。たぬきです。唐突ですが、私は、「母」になったことがありません。
なろうとしたことはありますが、いくつかの選択や事情の中で、あきらめました。
今は夫婦ふたり、穏やかな暮らしをしています。
それでも、「もし、あのとき…」と思うことが、時折ありますし、
母になった自分を想像し、少しだけ切なくなることもあります。
そんな中で出会った一冊。
乃南アサさんの短編集『マザー』。
5人の「母」が語る、決して美しくはない物語
この本は、5人の母たちを描いた短編集です。
どの母も、いわゆる理想的な母親像とはかけ離れています。もしくは理想的な母親を演じています。自己犠牲、孤独、報われなさ、怒り、ためらい…
そんな感情を抱えながら、それでも「母親」として生きているのです。
読後、スッキリする話はほとんどありませんでした。
どれも重たく、複雑で、苦い。
でも、読み進めるうちに私はこう思い始めていました。
「ああ、母親って、こんなにも大変なんだ」
本当はきっと楽しい子育てもあるのでしょう。しかし、なにしろ母親を経験していないのでこの小説の醸し出す不思議なリアリティが私にひしひしと迫ってくるのです。切ない、報われない母。
それでも、「母」に拍手を送りたくなった一編
唯一、心の中で拍手を送ったのが「セメタリー」という話。
詳細は書きませんが、これは母親の意地と選択に「喝采」を送りたくなった作品です。
ちょっと息子には申し訳ないけれど…でも、お母さん、よくやった!と素直に思えました。
「母性」という言葉の裏側で
この作品集は、「母性」という言葉の曖昧さ、重たさ、そして現実とのギャップを浮き彫りにしているように感じました。
母であることが常に正義ではなく、
母であることが必ずしも幸せではないこともある。
それでも、母として生きている人たちがいる。
声にならない声を、この作品は掬い上げてくれているように思えました。
あと、「母」が幸せかどうかは「父」(夫)の存在も大きいですね。
最後に
「母になれなかった人」にとっても、
「母になった人」にとっても、
「母になろうとしている人」にとっても。
何かしらの感情が残る、そんな一冊です。
読み終えたあと、深く深く、心がざわつきました。
でも読んでよかった一冊です。
最後までお付き合いいただき有難うございました。

