
夏の終わりが近づくと、ふと耳が求める曲がいくつかあります。
槇原敬之さんの「Witch hazel」も、そんな一曲。このアルバムに収録されています。
あのメロディが流れると、なんとも切ない感情が、静かに波のように押し寄せてきます。
ひと夏の恋——もう戻らないと分かっていながら、それでも忘れられない時間を振り返る主人公の気持ちを追体験しているような気持ちになります。
今回はこの「Witch hazel」の歌詞をたどりながら、誰の心にもあるであろう夏の記憶について、静かに綴ってみたいと思います。
恋と呼ぶには、さよならを覚悟していた——始まりから終わりを背負う恋
恋と呼ぶにはさよならを聞くことを
Witch Hazel 槇原敬之
覚悟していた僕らだった
なんて残酷な始まりでしょうか。
出会った瞬間から、別れの影を背負っていた二人。
希望やときめきでいっぱいのはずの「恋」の始まりが、もうすでに“さよなら”を含んでいる。
そんな恋だからこそ、何気ない瞬間がいっそう鮮やかに、心に刻まれていきます。
夏休み中のKISS、焼けていく肌、借りたオープンカー
夏休み中のKISSの数が一番たくさんあったそう覚えてる
Witch Hazel 槇原敬之
僕の肌がだんだん焼けてくのをおもしろそうに見ていたよね
仲間から抜け出して借りたオープンカー カーブ切るたび 髪が肩にあたった
なんてことのない光景なのに、妙にリアルで、どこか懐かしい。
誰しも一度は体験したような、淡い夏の記憶。
陽に焼けた肌、風に舞う髪、休みの間のKISS。夏に特有の無敵感。特に若いうちは自分の体験の全てが特別で、でもその時はまだ、終わりがこんなに早く来るなんて思っていないんですよね。
本気で好きになることの「怖さ」
本気で好きになったみたい
Witch Hazel 槇原敬之
そう言えば君が
肩をすくめ困るのが 少し怖かった
恋って、嬉しいばかりじゃない。
好きになればなるほど、失うことが怖くなる。
ましてや、自分だけが「本気」だったらどうしよう……そんな不安が、ふとした仕草に見え隠れするんです。
若さって、純粋で、正直で、でもちょっと不器用。
だからこそ、こんな言葉が胸に刺さるんだと思います。
ころんだ空は、この街にない——海辺の幻影
折ったままのチノのすそかくれてた あの海辺の砂こぼれおちる
君がふざけて僕を押したひょうしにころんだ空はこの街にない
Witch Hazel 槇原敬之
時間が経つにつれて過去の思い出が手のひらからこぼれ落ちていくような、切なくも美しい感覚を見事に表現しています。
あのとき見上げた空、あの光と風。
今、同じ場所に立っても、同じ空は二度と見られない。
それはそのときの2人だからこそ見えた景色で、
時間だけじゃなく、心の在り方も含めて、もう戻れない。
でも不思議なもので、忘れられない景色ほど、心の奥でずっと輝いているものなんです。
大人になるとは、忘れていくこと?
太陽がやけどをさせて痛かった背中も君を強く抱く時は平気だったんだ
大人になることが 忘れて行くことなら
Witch Hazel 槇原敬之
僕は今のままでいたい
ここからは若さゆえの純粋で力強い感情が伝わってきますよね。恋に夢中だった頃は、どんな痛みも感じなかった。
成長することは、たしかに痛みを超えることでもあります。
でもそれは、心の奥の宝物まで風化させることではないはず。
この歌の主人公は、あの日の痛みごと、思い出を大切に抱えて生きていこうとしています。
それは、とても誠実で、切ない願いです。
「Witch hazel」は心の奥に鍵をかけている人に向けての曲
「Witch hazel」は、甘さと切なさがないまぜになった、
青春の片隅をそっと描いた名曲です。
もう戻らないと分かっていながら、それでも思い出してしまう——
そんな誰かが心の中にいるなら、この曲は、静かにその扉をノックしてくれるはずです。
たぬき的メモ
- 槇原さんの歌は、いつも「過ぎた時間」を大切に扱ってくれる。
- 「さよならを覚悟していた恋」なんて、なんて優しくて切ないんだろう。
- 夏は終わるけど、あの時の光景は、ずっとここに残ってる。
- ふと耳に入ってくると、一瞬だけ、あの夏に帰れる気がする。
あとがきのようなたぬきのひとこと
この曲を聴くと、ちょっとだけ足を止めたくなります。
過去の自分や、大切だった誰かのことを思い出して、
「忘れたくないな」と、そっと願ってしまうんです。
季節は移ろっていくけれど、心の中のあの夏だけは、色あせないままでいてほしいな。
最後までお付き合いいただき有難うございました。
曲を聞いてみたい方はここからどうぞ。

