静かな余韻📚『愛すべき娘たち』(よしながふみ)ー「呪い」と向き合いながら、生きていく 


こんばんは、たぬきです。今回はよしながふみさんの作品『愛すべき娘たち』を紹介します。吉永さんといえば、代表作『大奥』や『きのう何食べた?』が有名です。もちろんそれらの作品も大好きで全巻揃えていますが、私にとって、何度も読み返すバイブルのような作品がこれなんです。


初めてこの作品を読んだとき、私は心の中で何かがずしりと動くのを感じました。
ずっと紹介したいと思っていたのに、なかなかできずにいたのは、言葉にするのが怖かったのかもしれません。
それだけ、深く自分の過去や、今の自分自身を見つめ直させられるような作品だったからです。


教育、しつけ、そして「呪い」

この短編集を貫くテーマ、それは私にとって「呪い」でした。
親から子へと知らず知らずに手渡されるもの──それは愛情のはずなのに、ときに、人生を縛る見えない鎖になる。

教育という名の呪い。
しつけという名の呪い。
そして「母であること」への期待という名の呪い。

この作品に登場する母や娘たちは、その鎖の重さに苦しみながらも、誰もがどこかで抗おうとしている。
中でも、私は第一話と最終話に登場する母親(同一人物です)に強く心を動かされました。


理不尽な育てられ方を超えて

第一話と最終話の母親は、自分自身が母から受けた理不尽さを忘れていません。
むしろ、それを自覚しているからこそ、「自分の娘には同じ思いをさせまい」と行動する。

「母親のようになりたくない」と願いながら、それでも母親になる。
葛藤の中で、娘に正直に生きる姿勢を示し、自分の人生も選び取っていく。
再婚相手にきちんとやさしさを求め、選ぶことができるのも、彼女が「呪い」と向き合いながらも自分を見失わなかった証拠です。

その姿に私は、勝手ながら拍手を送りたくなりました。
母であることを「放棄しない」でも自分を「犠牲にしない」──そんな絶妙なバランスで歩く彼女が、とても人間らしくて愛おしい。


「あたしには過ぎた子供」と言われた彼女が抱えていたもの

一番衝撃を受けたのは第三話のヒロイン・莢子のあるセリフでした。

美人で、性格もよく、親からも「過ぎた子供」と言われるような“完璧な娘”である彼女。彼女は祖父から「分け隔てしてはいけないよ」と言われ続け、その通りに優しい娘であり続けました。
そんな彼女が、なぜ結婚しないのか──それは、自分でも無意識のうちに刷り込まれていた“教育”という名の呪いに気づいたから。

その気づきが、あまりにも切なく、あまりにもリアルで、胸をえぐられるような感覚がありました。そのセリフについては、実際にお読みいただきたいと思います。
理想の娘である彼女が、ようやく言葉にした「本当の気持ち」を皆さんにも受け止めてほしいのです。


「母というものは、不完全な女のこと」

物語全体の主人公である雪子が最終話で口にする言葉。

「母というものは要するに 一人の不完全な女の事なんだ」

雪子の祖母は、自分のコンプレックスを娘である雪子の母にぶつけ続けていました。本人は無意識にです。そんな母(祖母)にずっと傷つけられながら、それでも、雪子の母は雪子を深く愛し続けていた。だから雪子は言います。

「あたしは お母さんが 死んだら お葬式では うんと 泣くからね」

「呪い」を断ち切った瞬間のように思えました。


よしながふみさんの作品にある「余韻」

『愛すべき娘たち』の登場人物たちは、それぞれに小さな“決断”をしながら、ドラマチックではない日常へと戻っていきます。
でもその日常には、確かに変化があり、前よりもほんの少し軽やかになっているようにも見える。

よしながさんの作品にはいつも、終わっても「終わらない」世界があります。
読者が本を閉じても、その向こうでは彼らが淡々と生きているような、そんな余韻を残してくれる。

だから私は、読むたびに、何かを預けたくなる。
誰にも話せなかった思いを、作品の中にそっと置かせてもらえるような、そんな気持ちになるのです。


さいごに

「母」と「娘」、そして「女」であること。
その関係性のなかで生まれる、葛藤、痛み、そしてほんの少しの救い。

『愛すべき娘たち』は、読めば読むほど、心の深いところに沈んでいた思いが浮かび上がってくるような作品です。

読み終えてもすぐには言葉にできず、でも誰かにすすめたくなる。
そんな静かな衝撃を、この作品は与えてくれました。

最後までお付き合いいただき有難うございました。

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こんにちは、たぬきです。
高校で国語を教えながら、学校図書館の運営もしています。
本のこと、野球のこと、ゲームのこと…
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